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東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出の方針が4月に決まり、反発を強める中国や韓国。5月5日の日韓外相会談でも、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相が「韓国民の健康や安全、海洋環境に潜在的な脅威を及ぼし得る」と懸念を示した。しかし、世界各国の原子力関連施設は原発事故前から処理水と同様にトリチウムを含む水を放出している。韓国・釜山(プサン)のように付近で原子力関連施設がトリチウムを放出しながらも海産物の名所として知られる地域もあり、専門家は反発について「科学的根拠がない」と指摘。説明や補償の必要性を訴えた上で、「釜山の事例は福島の可能性を示す」としており、復興のひとつのモデルにもなり得る。
福島第1原発に貯蔵されている処理水は約860兆ベクレルのトリチウムを含む。政府は貯蔵している処理水は大幅に希釈し、毎年最大22兆ベクレルを今後数十年に分けて放出していく方針だが、世界に目を向けると、1年でこの貯蔵量の10倍以上を放出している国もある。
経済産業省が4月13日にまとめた資料によると、フランスのラ・アーグ再処理施設では2018年に1京1400兆ベクレルのトリチウムを海洋などに放出。英国のセラフィールド再処理施設は19年、423兆ベクレルを海などに流した。中国の福清原発も52兆ベクレルを液体放出している。
注目されるのが近隣国の韓国だ。釜山港から約30キロの古里(コリ)原発は18年に海洋などに50兆ベクレルを放出し、約80キロ離れた月城(ウォルソン)原発では25兆ベクレルを海洋などに出している。釜山は韓国第2の都市で、工業都市であるとともに韓国最大の海産物市場を抱える観光地としても知られる。釜山港に水揚げされるタイやヒラメ、タコの刺し身にみそなどを付けて出される郷土料理は名物となり、観光客を集めている。
福島第1原発の廃炉に携わる東京大大学院の岡本孝司教授(原子力工学)は「釜山にできて福島にできないことはない」と話す。
反発を強める中国や韓国について、「いずれも自国でトリチウムを放出しており、科学的に冷静に対処すべきだ」とした上で、「処理水を放出すれば、今後原発から取り出されるデブリ(溶け落ちた核燃料)の管理も容易になる」と廃炉につながる点も強調する。
ただ、放出にはいまだ忌避反応も強い。岡本教授は、分かりやすい言葉で現状を正しく伝えることが必要だと強調。「万が一、風評被害が生じた場合はきちんと補償する体制も整えるべきだ」としている。
筆者:荒船清太(産経新聞)